不思議の国のアリスの世界へ②(レジュメベタ張り)
- らびっとぉ
- 2021年4月13日
- 読了時間: 9分
あらすじ
アリスの物語と言っても、おそらく覚えていない人やディズニー版こと『ふしぎの国のアリス*[1]』しか頭にない人が大半であろうから『不思議の国のアリス』の大まかなあらすじを書いておく。
第1章 ウサギ穴に落ちて
ある日、アリスは川辺の土手で読書中の姉の傍で退屈していた。
そこに服を着た白ウサギが通りかかりアリスはそれを追いかけて穴に落ちる。
さまざまなものが壁の棚に置いてあるその穴をゆっくり時間をかけて落下する。
アリスは、穴底の広間でそこで金の鍵と小さな扉、不思議な小瓶を見つける。
瓶の中身を飲んだアリスは小さくなるが、鍵をテーブルに置き忘れて取れなくなる。
今度はケーキを見つけて食べる。
第2章 涙の池
ケーキを食べると背丈だけが伸びる。
それに驚いた白ウサギが落とした扇子をあおぐと再び小さくなった。
小さなアリスは足を滑らせ海に落ちるが、それが巨大化時にできた涙の池だと気づく
泳ぎながら近くにいたネズミに飼い猫*[2]の自慢話をする。
いつの間にか周囲には沢山の鳥獣たちが泳いでいた。
第3章 コーカス・レースと長い尾話*[3]
アリスと鳥獣たちは、岸辺に上がり、体を乾かそうとする。
ドードー鳥の提案で「コーカス・レース (円を描いてぐるぐるまわる競走) *[4]」
をする。
ネズミに何故彼が犬や猫を怖がるのかを話してもらい、アリスは再び飼い猫の自慢話を始める。
この猫がネズミも鳥も食べると聞いた動物たちは、逃げ去ってしまう。
第4章 白ウサギがちびのビルを使いに出す
白ウサギが戻ってきて、アリスをメイドと勘違いして自分の家に使いに行かせる。
アリスは家の小瓶を見つけて飲み、再び身体が部屋いっぱいに大きくなる。
白ウサギは、「トカゲのビル」を使ってアリスを追い出そうとするが失敗、遂には小石を投げ入れる。
入った小石がケーキに変わり、それを食べたアリスは再び小さくなって家から脱出。
第5章 イモムシの助言
動物たちや大きな子犬から逃れて、森に入る。
キノコの上で大きなイモムシに出会い、イモムシはアリスにあれこれ問いただす。
イモムシから、キノコを食べるとの一方は大きく、もう一方は小さくなれると聞く。
アリスはキノコを少しずつかじり調節しながら元の大きさに戻る。
小さな家を見つけ、そこに入る為に小さくなる方のキノコをかじる。
第6章 豚とコショウ
公爵夫人の家に入ると、サカナとカエルの従僕がやり取りをしている。
家の中には、赤ん坊を抱いた公爵夫人、赤ん坊に物を投げる料理人、チェシャ猫がいた。
アリスは、公爵夫人から赤ん坊を渡されるも、家の外に出ると豚になって森に逃げていく。
アリスが森を歩いていくと、樹上にチェシャ猫*[5]が出現し、アリスに道案内をする
第7章 狂ったお茶会
三月ウサギ、帽子屋、ネムリネズミがお茶会を開いている。
アリスは自由奔放な彼らに呆れてドアの外に出る。
するとそこは最初の広間だった。
アリスは、キノコで背を調節し、金の鍵を使って、今度こそ小さな扉を通る。
第8章 女王陛下のクロッケー場
通り抜けた先は美しい庭で、トランプ兵が庭木の手入れをしている。
そこにハートの王と女王たちが兵隊や賓客をともなって現われる。
女王は、庭師たちに死刑宣告をした後、アリスにクロッケー大会の参加を促す。
しかしクロッケー大会では、フラミンゴやハリネズミを道具にするので大混乱に陥る
その後チェシャ猫が空中に頭だけ出して出現し、女王たちを翻弄。
すぐにチェシャ猫は姿を消して逃げる
第9章 代用ウミガメの話
女王に呼ばれた公爵夫人は、アリスに教訓を見つけ出して教える。
一方の女王は、公爵夫人を立ち去らせ、クロッケーを続けようとするが参加者に次々と死刑宣告をしてまわるので、ついに参加者がいなくなってしまう。
女王は、アリスに代用ウミガメの話を聞いてくるように命令し、グリフォンに案内をさせる。
アリスは、代用ウミガメから彼が本物のウミガメだった頃に通っていた学校の教練について聞く。
第10章 ロブスターのカドリール
グリフォンが口をはさんだので、今度は「ロブスターのカドリール」という遊びの話になる。
そのうち裁判の始まりを告げる呼び声が聞こえてきたので、グリフォンは、唄を歌っている代用ウミガメを放っておいて、アリスを裁判の場へ連れてゆく
第11章 誰がタルトを盗んだ?
裁判では、ハートのジャックが女王のタルトを盗んだ疑いで起訴されていた。
布告役の白ウサギが裁判官役の王たちの前でその罪状を読み上げる。
アリスは、陪審員の動物たちに混じって裁判を見物する。
その間に自分の身体が勝手に大きくなりはじめていることを感じる。
裁判では証人として帽子屋、公爵夫人の料理人が呼び出され、3人目の証人としてアリスが呼ばれる。
第12章 アリスの証言
アリスは何も知らないと証言するが、王たちは新たな証拠の詩を出してジャックを有罪と断定。
アリスは裁判の馬鹿げたやり方を非難し「あんたたちなんか、ただのトランプのくせに」と叫ぶ。
トランプたちはいっせいに舞い上がってアリスに飛びかかる。
次の瞬間、アリスは、自分が姉の膝を枕にして土手の上に寝ていることに気がつく。
自分が夢を見ていたことに気づいたアリスは、姉に自分の冒険を語って聞かせ、走り去ってゆく。
一人残った姉は、アリスの将来に思いを馳せる。
文学作品としての『不思議の国のアリス』
『不思議の国のアリス』が大衆にうけた理由を敢えて言うのであれば、大人にも子供にもうける作品であったからとなるだろう。これについて具体的に見てみる。
・教訓の少ない児童小説
当時の児童向けの文学では大半が教訓を持っており、当然ナンセンスな面白さやパロディは積極的に取り入れられるものではなかった。
そこに一石を投じたのがこの作品であったという見解がされる。
・当時の英国やオックスフォード大学の風刺
分かる人には分かるという作風により、より親しみやすく意図的に解釈の余地を与えた作品として奥深さを兼ね備えている。
実際、ドッドソンは原作である『地下の国のアリス』も刊行するに至っているし、後世に数多くの論文が出ている。
・韻を意識した文体
これは英文学史的には珍しいことではないが、これが高等な文学ではなく、ありふれた童謡でもなく、俗っぽさを含んだ幻想小説*[8]の潮流に取り入れたという点では革新的であったとも言えるのではないだろうか。
このように、アリスの物語が他の童話や小説とは異なり、ある程度作者の意図があった上での作品であることが分かる。
もう一つ、このレジュメではどれだけ綴っても伝えきれないであろうが、アリスの物語の素晴らしさに『言葉遊び』という点を抜かしてはならない。
・ダジャレ(taleとtail、notとknotなど)
・造語(caucus-raceなど)
・替え歌(ロブスターのカドリールなど)
『アリスの物語』の文化的背景
次に、当時の英国ヴィクトリア朝(ヴィクトリア時代)について詳しく見ていく。
ヴィクトリア朝
1837-1901年。ヴィクトリア女王がイギリスを統治していた期間で、産業革命が成熟したことで、経済的にもイギリス帝国の絶頂期であった
注意しておきたいのは、イギリス史に於けるヴィクトリア朝とはテューダーやスチュアートといった王朝の名前ではなく、正確にはハノーヴァ―朝の一部に含まれる一人の君主による統治時代のことである
当時の階級と服装
そもそも当時はある程度の階級制度が確立しており、大まかには『労働者階級』『中流階級』『上流階級』の三つに区分することが出来る。
労働者階級
国民の大多数を占める階級。現代のホワイトカラーとは異なり工場での労働となり、はるかに劣悪な環境で低収入での労働を強いられていた。
この異常なまでもの労働環境が経営者をブルジョワたるものにさせたのであるが、これらについてはここでは扱わないこととする。
中流階級
一般的に言われるブルジョワジー(中産階級)に加えて専門職を合わせた階級。
ブルジョワジーには資本家・金融業者・貿易業者・卸売業者などが含まれ、専門職には医師・聖職者・弁護士・土木技師・機械技師などが含まれる。
リデル家や聖職者の家系でもあるドッドソンは中流階級に含まれる。
上流階級
爵位を持つ貴族と、大地主であるジェントリを合わせた階級。
両者は不労所得という点で一致している。
趣味に費やす為の膨大な金と時間があるので、古くから文化の担い手であった。
この階級による格差は生活だけでなく、服装や言語面*[9]にも大きくあらわれている
これらは保守的な上流階級ではなく、中流階級が最先端となって服装面で言うところの流行を形作っていた。
[1] ふしぎの国のアリス……ここでは「不思議」ではなく、平仮名表記の「ふしぎ」イコールでディズニーとしたが、正確には出版社でも集英社のみ「ふしぎ」表記で出版している(探したところ他には見つからなかった)。正直どうでもいいが、私は日常的に平仮名表記を見るとまずディズニーを疑うようにしている。 [2] リデル家の猫……アリスの物語で登場する猫は合計三匹いる。不思議の国では『ダイナ』、鏡の国ではダイナの子となる『キティ』と『スノードロップ』である。一方、現実のリデル家では『ダイナ』と『ヴィリケンズ』という二匹の猫を飼っている。因みにサンリオのキティもここから名前を取っているらしい。 [3] 第二章・第三章について……ここで出てくる鳥獣は『子ワシ』『オウム』『アヒル』『ドードー鳥』であり、『ネズミ』以外は黄金の昼下がりの面子である。但し、テニエルの挿絵ではそれに加えてカニやフクロウなど様々な動物が描かれている。 [4] コーカ・スレース……caucusは政治上で使用される『幹部会』の意味で、ぐるぐる回って終わりがなく、誰もが「勝った!」と主張する様子を風刺したもの。地下の国には無いシーン。 [5] チェシャ―猫……「チェシャ―猫のように笑う」という慣用表現からきている。実際英国にはチェシャ―州という州があるがその関連性は様々な説がある。又、アリス研究で有名なガードナーはその口の形を三日月に照らし合わせている。因みに、伸ばし棒は入れても入れなくても同じ。あと最後にこれだけは言わせてほしい、勝手にピンク色に塗らないで下さい、ディズニーさん。 [6] 帽子屋のなぞかけ……「カラスと書き物机が似ているのはなぜか」というものだが、後にドッドソンが答えを思いついたのか、序文で発表している。曰く、「“Because it can produce a few notes, though they are very flat; and it is nevar put with the wrong end in front!”」だそうだが、編集者が誤字だと思ってnevarではなくneverにして発行しまっている(ヒント)。 [7] 不思議の国の時間理論……不思議の国では時間さえもが擬人化されている。その為怒った『時間さん』が時間を止め、狂ったお茶会は終わらず、三月ウサギは永遠に発情期であり続ける。兎も角、アリスの物語は時間との付き合い方を改めて認識させてくれる点でも評価は尽きず、一見すると非教訓的ながら隠された教訓にははっとしてしまうものである。 [8] 幻想小説……19世紀初頭のフランスでのロマン派の台頭とともに生まれた文学ジャンル。ゴシック小説の流れをくむ。
[9] 中流階級の英語……アリスの物語は当時の中流階級の文体で書かれた書物である。これはドッドソンの階級から見ても当然のことであるが、例えばこれを日本語に訳すときに「~でありますわ」のような不自然な文体にするか否かは非常に興味深い議論である。作品が作られた文化的背景を尊重するか、現代に合った形に書き換えるべきなのかは、時代錯誤なジェンダー論の再生産を許容するかという問いに直結する。私は当然前者の立場であるのだが。
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